五行の本体と性質


3.火の性

●読み下し文
 火に炎上と曰ふ。炎上とは、南方、光輝を揚げ、盛夏に在り、気は極まり上がる。故に炎上と曰ふ。王者、明に向ひて治まる。蓋(かい)しその象を取る。古(いにしえ)は、明王南面(なんめん)して政を聴き、海内(かいだい)の雄俊(ゆうしゅん)を攬(と)り、これを朝(ちょう)に積み、以って明(めい)を助くるなり。邪佞(じゃねい)の人臣を退け、これを野(の)に投(とう)じ、以って壅塞(ようそく)を通ず。その人を任得すれば、則ち天下大いに治まること、垂供(すいきょう)してなすなし。易は離を以って火となし、明となす。離を重んじ明を重んずれば、則ち君臣倶(とも)に明らかなり。
明らかなれば則ち火の気に順ふ。火の気順なれば、則ちその性のごとし。その性のごとくなれば、則ち能く成熟し、人士の用に順ふ。これを用ふれば則ち起(おこ)り、これを捨(すつれば則ち止む。若し人君明らかならずして、賢良(けんりょう)を遠け讒佞(ざんねい)を進め、法律を棄て骨肉を疎(うとんじ、忠諫(ちゅうかん)を殺し罪人を赦(ゆる)し、嫡(ちゃく)を癈(はい)して庶(しょ)を立て、妾(しょう)を以って妻となせば、則ち火は、その性を失ひ、用ひざるに起り、風に随(したが)ひて斜めに行き、宗廟(そうびょう)・宮室を焚(や)き、民居を焼く。故に火に炎上せずと曰ふ。

 

南面:天子の位につくこと。天子となって国内を治めること。 天子の座は南を向いていた。

海内:四海の内、国内。天下。

雄俊:才能にすぐれている人。

邪佞:よこしまで、へつらうこと。

:朝にたいして在野。

:朝廷。天子がまつりごとを執る所。

壅塞:ふさぐこと。さえぎること。

垂供:何もせず、なすがままに任せること。多く、天下がよく 治まっていることにいう。 :易の卦で物では火。方位では南に配当される。

説卦伝 に、離は火となし、日となす、とある。

人士:人々。 讒佞:心がよこしまで、口がうまいこと。

骨肉:肉親。

忠諫:忠義の心からするいさめ。

:本妻の子。跡継ぎ。

:妾の生んだ子。

宗廟:祖先をまつるみたまや。

●現代文
 洪範に「火に炎上」と言っている。炎上とは、南方であり、光輝(ひかり)をあげ、盛夏にあって、気が極まり上ることである。そこで炎上と言った。
 王者が明らかな方向に向かって政治をしたならば、よく治まる。この象を取ったのである。

 昔、明王は、南面して政治をし、天下の秀れた人々を集め、これを朝廷において、政治をたすけさせた。また悪い人臣を退け、これを在野に追放し、その政治を正しい姿に返した。正しい人を任命することができたならば、天下が大いに治まることは、腕組をして何もしなくてもできるのである。

 易の説卦伝には、離を火とし、明としている。離を重んじ、明を重んじたならば、君臣、ともに明らかになる。明らかなれば火の気に順う。火の気が順であれば、その性のようになる。その性のようになれば、よく成熟し、人々の役に立つようになる。これを用いたならば起り、これを捨てたならば止んでしまう。

 もし人君が聡明でなく、賢良の臣を遠ざけ、讒佞の臣を進め、法律を無視し、肉親を疎んじ、まごころをもって諫める臣を殺し、罪人をゆるし、本妻の子の跡継ぎを廃して、めかけ腹の子を立て、妾を正妻としたならば、火は、その本性を失い、用いないのに起り、風に従って斜めに行き、宗廟や宮室を焚き、民の家を焼いてしまう。そこで、火に炎上せず、と言うのである。