人生の正午


放送大学心理学教材より
放送大学心理学教材より

 心理学者のユングは、人生(ライフサイクル)を太陽の運行になぞらえて午前と午後に分け、その前半部分(午前の部分)に少年期と成人期を、後半部分(午後の部分)に中年期と老人期を配して、半日分に比喩して見せた。

 ユングによれば、その四つの時期区分の間にはそれぞれ転換期があり、人は次の段階へ移行するに際しての危機を体験するという。そのうちでも成人期と中年期の間の転換期は「人生の正午」と呼ばれ、これまで東側にあった太陽が正反対の方向から照らすようになる最も劇的な転換期であるとされている。

 実際のライフサイクルでも、人は中年期以前には社会的地位を獲得するといった対外的な適応の精神発達をするのに対し、中年期以降には対内的な対応、つまり自分とその周辺を見つめ、自分らしい自分の発見に向かっていくといった対内的な適応精神発達へと向かっていく(個性化)。ちなみに、ユングは正午を四十歳前後としているが、その年齢に関しては、時代により社会によって種々の異論があり得るだろう。

 

 この「人生の正午」の危機的側面を男性四十名の個人史研究から実証的に示したのが、心理学者レビンソンの「ミドルエイジ・クライシス」つまり中年の危機論である。人は、人生の半分を過ぎた頃から急激に気力が衰え、若さを失うことに焦燥感を覚え、人生の無意味さを感じて落ち込んだりするというのである。要因は心理的、社会的に様々であるが、誰もが四十歳前後でそれを感じるというところは、人生の正午と完全に付会している。