五行の本体と性質


1.体 と 性

●読み下し文

 体は、形質(けいしつ)を以(も)って名となす。性は効用を以って義となす。五行の体性を以って、万物を質益(ま)す。故に合してこれを弁(べん)ず。

 木は、少陽の位に居り、春気(しゅんき)和し、煦温(くおん)にして柔弱(じゅうじゃく)なり。火その中に伏す。故に木は温柔(おんじゅう)を以って体となし、曲直(きょくちょく)を性とする。

 火は、太陽の位に居り、炎熾(えんし)にして赫烈(かくれつ)なり。故に灯(あかり)は明熱を以って体となし、炎上を性となす。

 土は四時(しじ)の中に在り、季夏(きか)の末に処り、陽衰(おとろ)へ陰長(ちょう)ず。位の中に在り、四行を総じ、塵(ちり)を積みて実を成す、故に能(よ)く持す。故に土は、含散(がんさん)・持実(じじつ)を以って体となし、稼穡(かしょく)を性となす。

 金は、少陰の位に居る。西方は物をなすところ。物成れば、則ち凝強(ぎょうきょう)す。少陰は即ち清冷(せいれい)なり。故に金は、強冷を以って体となし、従革(じゅうかく)を性となす。

 水は、寒虚を以って体となし、潤下(じゅんか)を性と為す。

洪範(こうはん)に云ふ、木に曲直(きょくちょく)と曰(い)ひ、火に炎上(えんじょう)と曰ひ、土に稼働(かどう)と曰ひ、金に従革(じゅうかく)と曰ひ、水に潤下(じゅんか)と曰ふと。これその性なり。

 淮南子(えなんじ)に云ふ、天地の襲精(しゅうせい)は陰陽となり、陰陽の専精(せんせい)は四時となり、四時の散精(さんせい)は万物となる。積陰の寒気、反するものは水となし、積陽の熱気、反する物を火となす。

水は、陰物と雖(いえ)も、陽その内に在り。故に水の体は内明らかなり。

火は、陽物と雖も、陰その内に在り。故に火の体は内暗し。

木は、少陽たり。その体、また陰気を含む。故に内空虚にして、外花葉(かよう)あり。敷栄して観るべし。

金は、少陰たり。その体剛利にして、殺性外に在り、内また光明ありて照すべし。

土は、四徳を苞(つと)む。故にその体、能く虚実を兼ねる。

 

●現代文

 体は姿形によって名づけたものである。性は働きによって規定されたものである。万物は五行の定めるところの体と性によって成立っている。

 は、少陽の位置にあり、春の気を和(なご)まし、暖かく柔弱(じゅうじゃく)である。その理由は、木の中に火が隠れているからである。故に木の体は温かで柔らかく、曲がったり真っ直ぐになったりする。

 は、太陽の位置にあり、盛んに燃え、非常に明るい。故に火は明るく熱いことを体とし、燃え上がることを性とする。

 は、四時(春夏秋冬)の中心にあり、四行をまとめ上げ、目に見えない微小な粒子を集め、実とする。よって万物を育成し、実を成すことを性とする。

 は、少陰の位置にあり、西方は物を成すところである。物が成ると固まって強くなる。少陰は清らかで冷たい。そこで金は、強く冷たいことを体とし、柔らかで自由に形を変えることを性とする。

 は、寒く虚しいことを体とし、潤い、下ることを性とする。

 尚書(しょうしょ)、洪範(こうはん)に「木は曲直と云い、曲がったり、真っ直ぐになったりする。火は炎上と云い、燃え上がる。土は稼稷と云い、万物を育てて実らせる。金は従革と云い、規範に従って革(あらた)まる事によって器となる。水は潤下と云い、潤わせながら、高い所から低い所へと流れる」と云っています。

 淮南子・天門訓に「天地の集まり合った気は、陰陽となり、陰陽の純となった気は四季となり、四季の散じた気は万物となる。積陰の寒気を水とし、積陽の熱気、それに反するものを火とする」と云っています。

水は、陰物といっても、陽がその中にある。そこで水の体は内が明るい。

火は、陽物といっても、陰がその中にある。そこで火の体は内が暗い。

木は、少陽であり、その体はまた陰気を含んでいる。そこで内は空虚であるが、外には花や葉があり、咲いた花を見ることができる。

金は、少陰であり、その体は剛(つよ)く、利(するど)く、殺性が外にあり、内は光明があって照らすことができる。

土は、木・火・金・水の四つの徳を包含している。その体は虚と実を兼ねている。